1.4 賃金と働く人のモチベーション
働く人のモチベーションを高めるには、モチベーション理論それぞれに基づき人的資源管理施策にモチベーション改善策が入れられているが、組織変革論、組織風土論、集団理論などに関する研究のもとでモチベーションを高める施策も考えられているようになっている。林(2000)がアメリカにおける実証研究の結果にもとづき、組織メンバーの仕事モチベーションの生成·規定要因を体系化したものであるが、図1-3のとおり、働く人のモチベーションに関しては「パーソナリティ→職務態度→モチベーション→職務業績·欠勤·離職」という流れが存在しているが、各要素の間には相互作用関係がある。また、林(2000)は職務態度がモチベーションに作用する直接的決定要因であり、職務態度を決定する重要な要因であるパーソナリティの中核は価値意思であると指摘している。
図1-3から見ると、働く人のモチベーションを高める有効な管理施策はどのように定めたらいいか決して簡単な問題ではない。特に企業で働く人はみんな同じパーソナリティを持っているわけではないため、働く人それぞれに対して有効な管理施策を取るのがもっとも理想的であるが、現実では可能性が低そうである。そのため、管理を行う際、働く人の大多数が持っている欲求などを把握するか、またはチームのニーズを把握するかによって、働く人の仕事へのモチベーションを高める施策を高めるのはより簡単になり、有効性も高まるであろうと思う。
図1-3 組織メンバー全般のモチベーションのメカニズム
出所:林“組織心理学”2000の118頁。
さて、企業において人的資源管理は作業能率促進機能、組織統合機能と変化適応機能が果たすのに期待されているが、賃金管理は人的資源管理の一環として企業の戦略に応じて、労働力の調達、働く人のモチベーションの向上による貢献度の引出し、労使関係の安定などに役立つと考えられる。賃金管理は具体的にどんな目的で行われたらいいか、企業の戦略や経営目標によるので、個々の企業において自分企業にふさわしい賃金制度を取るのが大切であろう。
企業の目標を実現させるにはインセンティブとしての賃金制度を活用するべきであるが、賃金のインセンティブ機能が有効的に果たせるには働く人の欲求をまずは正しく把握しなくてはならない。前節のモチベーション理論によれば、合理的経済報酬はモチベーションに作用する要素である。賃金は経済的報酬の重要な部分であり、働く人の生活維持·向上に直接影響を与える。それだけでなく、働く人の価値を間接に示すものでもあると広く認められている現在では、賃金は働く人の社会的欲求、自尊的欲求を満たすものでもあると思われ、働く人のモチベーションに大きく作用すると言える。
ただし、モチベーションの向上には賃金はうまく機能できない場合があるかもしれない。これはモチベーション理論に対する実証研究で明らかになった。すでに高い賃金を支払われた働く人にとって、もっと高い賃金より、むしろ業務の達成感や仕事のやりがいを感じさせるなどによって動機付けられるのが有効であろう。それゆえ、インセンティブとして賃金を含む合理的な報酬システムを作ろうとすれば、働く人は自分自身を、自分の仕事を、そして自分の賃金をどう見ているかに対してはっきり理解する必要がある。
ちなみに、賃金制度は人的資源管理の一環なので、ほかの管理施策と深く関わっている。特に人事考課制度は個人賃金の決定に大きく影響するため、インセンティブとなる賃金であるかどうか、人事考課の公平公正によって影響されると言える。働く人に納得してもらえない評価であれば、その評価による賃金には満足度が低いと考えられるのである。