第1章 賃金と働く人のモチベーション
1.1 賃金に関する用語
最初に賃金に関連する用語の定義を見ていくことにする。
賃金:日本においては労働基準法11条は賃金を賃金·給料·手当て·賞与その他の名称の如何を問わず、労働の代償として使用者が労働者に支払うすべてのものと定義している。ここでは「企業と労働者の交換関係において労働者が提供する労働ないし貢献に対して、企業がその対価として労働者に支払う経済的報酬」という定義を取る。
給与:賃金は労働者の対価として支払われる金銭で、受け取る労働者にとっては生活費をまかなう原資、支払う使用者からみると生産活動に必要な費用と限定した捉え方をされるのに対して、給与は俸給や賃金さらに諸報酬を含めたより広範囲な意味をもつ。
報酬:仕事の見返りとして人が受け取るすべての利益のことを言う。人的資源管理では賃金、賞与、年金、休暇、福利厚生などを報酬として捉える。
賃金制度:「個々の労働者に支払われる賃金の決め方、支払い方の総体を言い、賃金構成ないし体系及び賃金の形態を総称するもの」。すなわち、賃金構成、賃金体系及び賃金形態を含むものであり、賃金水準以外の問題を賃金制度と言える。本書では主に個人の賃金額の決定方法、あるいは総人件費を個人に分配するための方法である賃金制度に関して考察しようと思う。個人への賃金を支払う方法は大きく分けると、インプットに基づくシステムとアウトプットに基づくシステムの2種類がある。インプットに基づくシステムでは、時間の経過、経験、スキルなど人が仕事に対してインプットするものと連動して賃金が決まる方法であるのに対して、アウトプットに基づくシステムでは、仕事の成果と賃金が連動して決められる方法であると言われている。また賃金の決定方法を「人」の属性にもとづき賃金を支払う方法と「仕事」にもとづき賃金を支払う方法と2種類に分けて捉えることにする。
賃金体系(賃金システム):賃金制度に近い概念であるが、賃金を決定する構成項目に焦点を当てている。“新版労働用語辞典”(575頁)では、賃金体系を「個別賃金決定のルールをさしたもの」であると定義したが、主な内容は①個々の労働者に支払われる賃金がどのような種類の賃金の項目の組み合わせによっているか、②基本的賃金項目と諸手当並びに付加的賃金項目をいかに組み合わせるか、③各賃金項目はどのような算定方法によっているかというようなことである。以下では賃金体系を賃金の構成項目の組み合わせであると理解しておいた。
基本給:年齢·学歴·勤続年齢·能力·資格·地位·職務の従業員の属性または従事する職務を基準に決める給与であり、本給、本人給とも呼ばれている。賃金の基本的部分で、しかも定額制によって決められているものである。