第4章 春歌(上)
〔1〕
旧年新春歌
在原元方[67]
新春入旧年
问春归哪岁咋算
去年或今年
[原文]
年の内に春はきにけりひととせを去年とや言はむ今年とや言はむ[68]
〔2〕
立春歌
纪贯之
浸袖水成冰
今日立春迎东风
风吹冰可融
[原文]
袖ひちてむすびし水のこぼれるを春立つ今日の風やとくらむ[69]
〔3〕
无题
佚名
春霞起哪边
遥遥看取吉野山
却见雪纷然
[原文]
春霞立てるやいづこみよしのの吉野の山に雪は降りつつ[70]
〔4〕
二条后妃初春歌
雪花正纷飞
春天已来归
春归可融黄莺泪?
[原文]
雪の内に春はきにけりうぐひすのこぼれる涙今やとくらむ[71]
〔5〕
无题
佚名
莺落梅枝梢
思春唤春春未到
飞雪絮絮飘
[原文]
梅が枝にきゐるうぐひす春かけて鳴けども今だ雪は降りつつ[72]
〔6〕
雪落树枝歌
素性法师[73]
春至花未发
黄莺误将雪作花
啼鸣枯枝丫
[原文]
春たてば花とや見らむ白雪のかかれる枝にうぐひすの鳴く[74]
〔7〕
无题
佚名
心动欲折花
枝上残雪未融化
雪花也是花
[原文]
心ざし深く染めてし折りければ消えあへぬ雪の花と見ゆらむ[75]
〔8〕
二条后[76]得号“东宫御息所”,时值正月三日,蒙召陈辞,晴日当空,忽而雪落头上,遂奉命咏歌一首
文屋康秀
身沐春阳下
忽降白雪染白发
老来倍觉侘[77]
[原文]
春の日の光にあたる我なれどかしらの雪となるぞわびしき[78]
〔9〕
落雪歌
纪贯之
村庄笼春霞
树木萌芽花未发
雪飘似飞花
[原文]
霞たち木の芽もはるの雪降れば花なき里も花ぞ散りける[79]
〔10〕
初春歌
藤原言直[80]
花儿开太迟
借问春天来何时
黄莺也无词
[原文]
春やとき花やおそきと聞きわかむ鶯だにも鳴かずもあるかな[81]
〔11〕
初春歌
壬生忠岑
人说春已莅
未闻黄莺声声啼
缘何有春意
[原文]
春きぬと人はいへども鶯の鳴かぬかぎりはあらじとぞ思ふ[82]
〔12〕
宽平[83]帝时后宫和歌竞咏
源当纯[84]
谷风河冰涣
粼粼浪涌冰凌间
恰似春花绽
[原文]
谷風にとくる氷のひまごとに打ちいづる波や春の初花[85]
〔13〕
纪友则
好风报春到
借得风势花香飘
引来黄莺闹
[原文]
花の香を風のたよりにたぐへてぞ鶯さそふしるべにはやる
〔14〕
大江千里[86]
山谷传鸟音
若无黄莺声声吟
谁知春来临
[原文]
鶯の谷よりいづる声なくは春くることを誰か知らまし[87]
〔15〕
在原栋梁[88]
春来花未绽
山乡村落莺鸣啭
声声带慵懒
[原文]
春立てど花もにほはぬ山里は物憂かる音に鶯ぞ鳴く[89]
〔16〕
无题
佚名
择居原野边
筑个小屋享清闲
朝朝闻莺啭
[原文]
野辺ちかく家居しせれば鶯の鳴くなる声はあさなあさな聞く[90]
〔17〕
春原草离离
野守[91]切莫摧烧急
容我来藏妻
[原文]
春日野は今日はな焼きそ若草のつまもこもれり我もこもれり[92]
〔18〕
来到春日野[93]
借问野守菜如何
何日可采撷?
[原文]
春日野の飛火の野守いでて見よいまいく日ありて若菜摘みてむ
〔19〕
山松雪皑皑
嫩菜已生京郊外
茸茸待人摘
[原文]
み山には松の雪だに消えなくに都は野辺の若菜摘みけり[94]
〔20〕
今日雨叆叇
明日春雨若再来
嫩菜即可采
[原文]
梓弓おしてはるさめ今日降りぬ明日さへ降らば若菜摘みてむ[95]
〔21〕
仁和帝为亲王时赐人嫩菜歌
为君摘嫩菜
来到田野间
不畏春雪湿衣衫
[原文]
君がため春の野にいでて若菜つむ我が衣手に雪は降りつつ
〔22〕
奉命作歌
纪贯之
摘菜去春原
遥挥白袖唤同伴
莫嫌路途远
[原文]
春日野の若菜摘みにや白妙[96]の袖ふりはへて人のゆくらむ
〔23〕
无题
在原行平[97]
春空笼霞霓
山风却来袭
撕破天上云霞衣
[原文]
春のきる霞の衣ぬきをうすみ山風にこそ乱るべらなれ[98]
〔24〕
宽平帝时后宫和歌竞咏
源宗于[99]
松树四季绿
待到春来旧年去
翠色更浓郁
[原文]
ときはなる松のみどりも春くればいまひとしほの色まさりけり
〔25〕
奉命作歌
纪贯之
浣衣原野边
君振衣衫春雨乱
草木翠色染
[原文]
わがせこが衣はるさめ降るごとに野辺のみどりぞ色まさりけり[100]
〔26〕
青柳如丝线
风穿其间勤搓捻
繁花正烂漫
[原文]
青柳の糸よりかくる春しもぞ乱れて花のほころびにける[101]
〔27〕
歌西大寺[102]边柳
僧正遍昭
枝条如丝线
露似玉珠缀其间
织就春柳幔
[原文]
あさみどり糸よりかけて白露を玉にもぬける春の柳か
〔28〕
无题
佚名
嘤嘤百鸟吟
欣欣物华竞日新
唯我路将尽
[原文]
百千鳥[103]さへづる春は物ごとにあらたまれども我ぞふりゆく
〔29〕
山深不知处
远寻近觅闻布谷
不知将谁呼
[原文]
をちこちのたづきも知らぬ山中におぼつかなくも呼子鳥[104]かな
〔30〕
闻雁声思赴越[105]故人歌
凡河内躬恒
寒尽春日暖
寄语云中北归雁
代问故人安
[原文]
春くれば雁帰るなり白雲の道ゆきぶりに言やつてまし
〔31〕
归雁歌
伊势[106]
已见春霞起
大雁却飞离
繁花之地你不喜?
[原文]
春霞立つを見すてて行く雁は花なき里に住みやならへる
〔32〕
无题
佚名
折梅香满袖
黄莺绕袖鸣啾啾
欲把花来嗅
[原文]
折りつれば袖こそにほへ梅の花ありとやここに鶯の鳴く
〔33〕
庭前梅香幽
更比梅姿胜一筹
佳人袖香梅上留
[原文]
色よりも香こそあはれとおもほゆれ誰が袖ふれし屋戸の梅ぞも
〔34〕
种梅庭院旁
花不解意自芬芳
误作恋人袖底香
[原文]
屋戸ちかく梅の花うゑじめぢきなく待つ人の香にあやまたれけり[107]
〔35〕
倚梅少顷立
梅香幽幽沾我衣
无奈被猜疑
[原文]
梅の花立ちよるばかりありしより人のとがむる香にぞしみぬる[108]
〔36〕
折梅歌
东三条左大臣[109]
黄莺戴梅笠
人也折梅做簪子
庶几掩老姿
[原文]
鶯の笠にぬふといふ梅の花折りてかざさむ老いかくるやと
〔37〕
无题
素性法师
远处只可见风韵
折梅赏花须就近
色香更醉人
[原文]
よそにのみあはれとぞ見し梅の花あかぬ色香は折りてなりけり
〔38〕
折梅赠人歌
纪友则
折梅欲赠人
谁能知梅色与馨
爱花唯有君
[原文]
君ならで誰にか見せむ梅の花色をも香をも知る人ぞ知る
〔39〕
暗部山[110]中歌
纪贯之
暗夜暗部山
花香自幽然
闻香知梅花绽
[原文]
梅の花にほふ春べはくらぶ山闇にこゆれどしるくぞありける[111]
〔40〕
月夜应请折梅歌
凡河内躬恒
皎皎月色隐白梅
暗香幽幽袭人来
始知梅花开
[原文]
月夜にはそれとも見えず梅の花香を尋ねてぞ知るべかりける[112]
〔41〕
春夜咏梅
凡河内躬恒
春夜太无情
遮蔽梅花姿与容
幸而花香浓
[原文]
春の夜の闇はあやなし梅の花色こそ見えね香やはかくるる
〔42〕
诣初濑[113]时暂借宿,后重访,主人有“居所如故”之言,故折庭梅而歌
纪贯之
故地今重游
梅香还依旧
不知人心如昨否?
[原文]
人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける
〔43〕
咏水边梅开
伊势
春江流水梅花映
水中折花影
徒令衣袖湿泠泠
[原文]
春ごとにながるる川を花と見て折られぬ水に袖やぬれなむ
〔44〕
年华流逝水如镜
飘瓣瓣落红
掩如花颜容
[原文]
年をへて花の鏡となる水はちりかかるをやくもるといふらむ[114]
〔45〕
家中落梅吟
纪贯之
昼夜不合眼
贪看梅花颜
只恐睡去花飘散
[原文]
暮ると明くと目かれぬものを梅の花いつの人まに移ろひぬらむ
〔46〕
宽平帝时后宫歌合[115]之咏
佚名
梅香染衣袖
春色已去香长留
闻香春依旧
[原文]
梅が香を袖に移してとどめてば春はすぐともかたみならまし
〔47〕
素性法师
梅落春归忙
未妨梅馨沾袖藏
恼人一缕香
[原文]
散ると見てあるべきものを梅の花うたて匂ひの袖にとまれる
〔48〕
无题
佚名
梅花已飘零
花瓣散尽香不尽
聊慰忆梅情
[原文]
散りぬとも香をだにのこせ梅の花恋しきときの思ひいでにせむ
〔49〕
观邻人家樱花初开而赋歌
纪贯之
今岁樱初开
只愿樱花知春来
不知花易衰
[原文]
今年より春知りそむる桜花散るといふことはならはざらなむ
〔50〕
无题
佚名
长在高山无人赏
樱花莫感伤
待我来寻芳
[原文]
山高み人もすさめぬ桜花いたくなわびそ我見はやさむ
〔51〕
寻樱踏层峦
高峰低丘霞蔚然
尽掩樱花面
[原文]
山桜わが見にくれば春霞峰にも尾にも立ちかくしつつ
〔52〕
赏染殿[116]皇后御前瓶樱而歌
前太政大臣[117]
年岁催人老
却见女儿如花貌
忧思尽忘了
[原文]
年ふればよはひは老いぬしかはあれど花をし見れば物思ひもなし[118]
〔53〕
渚院[119]赏樱歌
在原业平
樱花开谢此心牵
世间若无樱相乱
春心自悠闲
[原文]
世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし
〔54〕
无题
佚名
若非激流相阻断
过河折樱还
赠人细赏玩
[原文]
いしばしる滝なくもがな桜花手折りてもこむ見ぬ人のため
〔55〕
赏山樱歌
素性法师
花好说不尽
各自折枝赠家人
眼见始知真
[原文]
見てのみや人にかたらむ桜花手ごとに折りて家づとにせむ
〔56〕
花盛时远眺京都歌
绿柳间红樱
遥望红绿交相映
京都春似锦
[原文]
見渡せば柳桜をこきまぜて都ぞ春の錦なりける
〔57〕
樱花下叹年老歌
纪友则
花如旧年好
怎奈流光把人抛
容颜忽已老
[原文]
色も香もおなじ昔にさくらめど年ふる人ぞあらたまりける
〔58〕
折得樱枝歌
纪贯之
山樱霞间藏
谁入山中细寻访
折得一枝芳
[原文]
誰しかもとめて折りつる春霞立ちかくすらむ山のさくらを
〔59〕
奉命作歌
纪贯之
樱花应开遍
疑是白云落山间
遥看迷人眼
[原文]
桜花咲きにけらしなあしひきの山の峡より見ゆる白雲
〔60〕
宽平帝时后宫和歌竞咏
纪友则
遥望吉野山
樱花盛开色烂漫
疑是雪一片
[原文]
みよし野の山辺に咲ける桜花雪かとのみぞあやまたれける
〔61〕
于闰三月歌
伊势
闰月续春日
但愿樱谢也莫急
聊解惜花意
[原文]
桜花春くははれる年だにも人の心にあかれやはせぬ
〔62〕
斯人经久不至,樱盛时忽而来访,故作此歌
佚名
莫言花易凋
年来君归少
樱花相待犹未恼
[原文]
あだなりと名にこそたてれ桜花年にまれなる人もまちけり
〔63〕
赠答
在原业平
今若不来明日凋
落花非雪虽难消
难有枝上俏
[原文]
今日来ずは明日は雪とぞ降りなまし消えずはありとも花と見ましや[120]
〔64〕
无题
佚名
花落徒恻恻
且趁今日尚灼灼
折樱留春色
[原文]
散りぬれば恋ふれどしるしなきものを今日こそ桜折らば折りてめ
〔65〕
惜花不忍折
护花且宿樱下舍
待到樱花谢
[原文]
折りとらば惜しげにもあるか桜花いざ宿かりて散るまでは見む
〔66〕
纪有朋[121]
樱色染衣浓
可怜花谢太匆匆
著衣忆花容
[原文]
さくら色に衣は深く染めて着む花の散りなむのちの形見に
〔67〕
赠访樱人歌
凡河内躬恒
屋前有樱林
且告过路赏花人
花落最伤春
[原文]
わか屋戸の花見がてらにくる人は散りなむのちぞ恋しかるべき
〔68〕
亭子院[122]歌会时歌
伊势
山深林莽莽
百花开尽樱始芳
可惜无人赏
[原文]
見る人もなき山里の桜花ほかの散りなむのちぞ咲かまし